下地処理素材の選択

 このページでは下地処理素材の能力と状況にあわせた選択基準について記述します。

 昨今では下地処理というと必ずサーフェーサーを塗装しなければならないかのような風潮がありますが、サーフェーサーは必ずしも塗装しなければならないものではありません。
 サーフェーサーは、下地を均一な色にして上塗りする塗料の発色を良くしたり、塗料の食いつきを良くしたり、ヒケや傷を埋めたりと、複数の目的を同時に達成できる便利な素材ですが、そのヒケや傷を埋める能力は飛行機模型などに見られる繊細なモールドを埋めてしまうことがあり、返って彫り直しなどの手間を増やしてしまうことがあります。
 また、その隠蔽力の高さは、素材の透けを利用したい場合(フィギュアで人の肌の透けを表現したい場合など)には利用できないことを意味します。
 サーフェーサーは目的に合わせて使用する下地処理素材の一種であり、それを塗装することは鉄則ではありません。
 目的と状況にあわせて適材適所に使い分ける知恵を持つことが大事です。

下地処理素材に求められる能力

 下地処理素材に要求される能力を以下に列記します。

下地処理素材の種類と能力

 この項では下地処理素材の種類と能力を表にまとめた上で、それぞれの使い分けについて記述します。

下地処理素材能力表

種類\能力隠蔽力(遮光性)被覆力表面状態視認性有機素材への結合力金属素材への結合力
サーフェーサー500
サーフェーサー1000
サーフェーサー1200
ホワイトサーフェーサー1000
スーパーサーフェーサー
黒塗装 ×
灰塗装 ×
銀塗装 ×
メタルプライマー ××

 表中の◎は極めて良好な性能を持つことを、○は目的に十分な能力を持つことを、△は使えないこともないものの能力不足であることを、×は能力に欠けることを表しています。
 結合効果に関しては、これが低い素材を下地処理に用いることなどないので省略しています。
 隠蔽力と遮光性に関しては重複する部分が多い要素なので一つにまとめてあります。
 結合力に関してはプラスチックなどの有機素材に塗装する場合と真鍮素材などの金属素材に塗装する場合で大きく差があるので分けています。
 評価は私個人の使用感によるもので、絶対的なものではありません。

下地処理素材の能力解説と使い分け方

サーフェーサー500(GSI)

 色は明るいグレーで表面状態視認性は良好です。
 ヒケや傷を埋める能力が非常に高いので被覆力を◎としています。
 目の粗い鑢で大まかに形を削りだしたために対象の表面に深い傷が多数ある場合や、対象の表面に細かい気泡が多数ある場合などに用いると大幅に手間を省けます。
 しかし、かなりの凹凸をなだらかにしてしまうために、実物の表面の微妙な波うちまで再現しているようなパーツや繊細な筋彫りが施されているパーツにはまったくといっていいほど向きません。
 金属素材にも食いつくものの、擦れるとしばしば剥がれるので金属素材への結合力は△としています。

サーフェーサー1000(GSI)

 プラモデル用途としては良い意味で非常に標準的な能力を持つサーフェーサーです。
 色は明るいグレーで表面状態視認性は良好です。
 適度な被覆力を持ち、多くのキットに見られる程度の深さの筋彫りでしたら埋まることはありません。
 しかしながら、それでもハセガワの航空機模型に見られるような繊細なモールドは非常に埋まりやすいため、そのようなキットには用いない方が無難です。
 金属素材にも食いつくものの、擦れるとしばしば剥がれるので金属素材への結合力は△としています。

ホワイトサーフェーサー1000(GSI)

 白色のサーフェーサー。
 白色は灰色と比較してヒケや傷が視認しにくいために表面状態視認性を△としています。
 発売された当初は結合力が弱く、しばしばマスキングテープ程度で塗膜が剥がれることがありましたが、現在では十分な結合力を持っています。
 被覆力はサーフェーサー1000と同等で適度なものですが、厚塗りすると乾燥時にヒビが入りやすい傾向があります。
 下地を綺麗な白に塗装できるため、赤や黄色といった一般に隠蔽力の弱い鮮やかな色を塗装する際の下地作りに向いています。
 金属素材にも食いつくものの、擦れるとしばしば剥がれるので金属素材への結合力は△としています。

サーフェーサー1200(GSI)

 色は明るいグレーで表面状態視認性は良好です。
 被覆力はサーフェーサー1000より弱く、ヒケや傷を埋める能力は低いですが、それは同時に筋彫りを埋めにくいことも意味します。
 サーフェーサー1000では埋まってしまうが、サーフェーサー1200であれば埋まらない−そんな感じの太さの筋彫りのキットに向いています。
 また、乾燥時の表面が、他のサーフェーサーでは梨地気味になるところが、かなりなだらかなので、塗装の際に表面をなだらかにするために水研ぎ(耐水紙やすりを水につけながら対象の表面を磨くこと)する作業を省くことができるため、光沢塗装の下地処理にも向いています。
 金属素材にも食いつくものの、擦れるとしばしば剥がれるので金属素材への結合力は△としています。

スーパーサーフェーサー(タミヤ)

 色はグレーで表面状態視認性は良好です。(色はライトグレー、ホワイトのもあります)
 被覆力はサーフェーサー1000より高めで、感覚的にはサーフェーサー800といったところです。
 英語でサーフェースプライマーと標記されているように、プライマーとしての能力も高く、模型用のサーフェーサーとしては最高級の結合力を持っています。金属素材への食いつきも良好なので金属素材への結合力を○としています。
 その殆んど素材を選ばない強力な結合力で非常に使い勝手の良いサーフェーサーですが、乾燥時の表面はやや粗めですので光沢塗装を行う際は水研ぎが必須といっていいでしょう。

塗装

 対象が金属素材などの塗料が食いつきにくい素材を含まない場合、サーフェーサーやプライマーを塗ることなしに対象に塗料を塗ってしまうのも有効な手段です。
 塗料のヒケや傷を埋める能力は低く、そういった用途での能力はほとんど期待できませんが、代わりに筋彫りが埋まることもほとんどありません。
 ゆえに、このようなサーフェーサーやプライマーを塗ることなしに塗料を塗ってしまう方法は、繊細な筋彫りが施された模型に向いています。
 確かに塗装ではヒケや傷をほとんど埋めることはできませんが、ヒケや傷をまとめて埋められることにより省略できる手間と、筋彫りを彫り直す手間とを天秤にかけて、筋彫りを彫り直す方が手間が大きいのであれば、サーフェーサーやプライマーを塗ること無しに塗装することは理に適っています。
 大抵の模型用塗料は金属素材にも塗装可能ですが、擦れると剥がれやすいので金属素材への結合力は△としています。
 ここでは黒、灰、銀を挙げていますが、黒鉄色やマホガニーなど隠蔽力が高く下地に適した色は他にも色々あります。

黒塗装

 他のページにも記述してあることですが、私たちが模型の色として認識する光の成分には、塗膜で反射してきた成分と塗膜を透過してきた成分があり、塗膜を透過してきた成分には、さらに模型を透過してきた成分が含まれます。
 そして、プラスチックの透けなどによる模型を透過してきた光の成分は、実物がそのように透けることはありえないだけに、実物の縮尺としての模型の魅力を大いに損なってしまいます。
 黒い塗料は光をほとんど反射しないから黒いわけで、極めて遮光性に優れ、そのような透けをほぼ完全に防ぐことができます。ゆえに隠蔽力(遮光性)を◎としています。
 その一方、黒い塗料は表面状態視認性がさほど良くないので△としています。他の塗料よりヒケや傷を発見しにくいですが、その点は慣れによりカバーすることができます。

灰塗装

 灰色の塗料は遮光性という点では黒い塗料に劣りますが、表面状態視認性は良いです。

銀塗装

 銀色の塗料はもともと隠蔽力が高いですが、金属色顔料による光の散乱のために見かけの隠蔽力はさらに高く見えます。
 (しかしながら、若干下地の影響を受けるため、質感に優れた銀塗装を行いたい場合は下地を黒く塗った方がいいでしょう。そうすれば塗装面からの光の成分は金属色顔料の反射のみとなり、下地を透過してきた成分が散乱された分が含まれることはありません。)
 銀塗装は反射によるぎらつきのためにヒケや傷が非常に目立つので表面状態視認性を◎としています。
 他の塗料と同じく被覆力を×としていますが、銘柄により金属色顔料の粒子の大きさには大きな差があるものの、通常の塗料の顔料粒子より金属色顔料の粒子は大きいために、ヒケや傷を埋める能力は通常の塗料より高めです。

メタルプライマー

 メタルプライマーはその名のとおり一般に金属素材へ用いる下地塗料です。
 メタルプライマーは大抵無色透明ですので、隠蔽力(遮光性)は×としています。
 希釈度によりますが、被覆力はさほど高くないので△としています。
 透けてしまうために、均一の色に塗装したときのような視認性は望むべくも無く、このため表面状態視認性は×としています。
 結合力が優れているので有機素材に対しても金属素材に対しても◎としています。
 金属素材への結合力が高い一方、被覆力は高くないので、繊細なエッチングパーツの下地処理に向いています。
 また、光を透過するため、透明レジンなどそのままでは塗料がのりにくい素材の透明さを活かして塗装したい場合の下地処理にも向いています。レジンの成型色を活かしてフィギュアで人の肌の透けなどを表現したい場合などに有効です。

結び

 サーフェーサーは下地処理の手段の一つであり、手段は目的と状況に合わせて臨機応変に適材適所で使い分けるのが肝要です。

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