第一回 タイヤの性質

制動力とスリップ率

 まず知ってほしいことは「タイヤは適度に滑っているときに最大摩擦力を発揮する」ということ。
 下図は制動力とスリップ率をグラフ化したものです。
 これを見れば解るように、タイヤはだいたいスリップ率が10%から30%のときに最大摩擦力を発揮します。そして、最大摩擦力を発揮するスリップ率を越えると制動力は徐々に低下していきます。

タイヤの最大摩擦力

 これを見る限りではスリップ率が高すぎても運転に対する影響は少ないように思えるかもしれません。しかし、スリップ率が増えるということは駆動力の伝達効率がそれだけ落ちるということ。つまり、 スリップ率が高まるにつれ「加速する能力」と「曲がる能力」は低下していきます。

ここの要点
  • タイヤは適度に滑っているときに最大摩擦力を発揮する。
  • スリップ率が高まるにつれ「加速する能力」と「曲がる能力」は低下する。
 こういったタイヤの性質はタイヤが剛体ではなく粘弾性体であることに起因します。詳しく知りたい人は自分で弾性運動学を学んでみるといいでしょう。
走りのヒント
 理論上最速のコーナリングは4つのタイヤが最大摩擦力を発揮していることが条件になる。
 つまり理論上最速のコーナリングにおいては、タイヤは最大摩擦力を発揮するスリップ率で滑っているということ。

追記(2007/04/18)

 capeta(カペタ)FinalLap.08で何か「誹謗」されていたので追記。

454 :風の谷の名無しさん@実況は実況板で :2006/10/27(金) 22:20:49 ID:GyCUDSeF
>>445
スリップ率0%で制動力0になるのが有り得ない
スリップ率の定義もない
縦軸の数値が何もない

これらのことから、理系とはとても思えない

 まず、「スリップ率0%で制動力0になるのが有り得ない」に対して。
 制動力はタイヤが車の移動に対して与えられる力です。スリップ率0%は粘弾性体が粘着摩擦だけで運動している状況でしかありえません。粘着摩擦のみによる運動が可能な力の範囲はタイヤ素材の粘着性により異なりますが、ある程度のスリップ率をもって運動している場合に比べて極僅かなものです。ゆえに制動力とスリップ率をグラフ化するとスリップ率0%のときの制動力は0に非常に近い値になります。
 詳しくはボッシュ自動車ハンドブックのP603をご参照ください。現在は改訂された版になっていますが。→ボッシュ自動車ハンドブック

 「スリップ率の定義もない」に対して。
 「速度」や「摩擦力」と同じくらい基本的な言葉なので説明不要と認識していました。スリップ率の定義が必要なら制動力の定義は尚更必要でしょうね。

 「縦軸の数値が何もない」に対して。
 制動力ですから力なわけですが、これは荷重やタイヤの性能により大幅に変わる値です。描くとしたらタイヤAは速度○km/hで荷重△kNのときに□kNという感じで同じようなラインを複数描く必要があるわけですが、ここで伝えたかったことはスリップ率と最大摩擦力の関係なわけで、それらは伝えたいことに対して不要な情報であり、単純化のために省略しました。

 追記終わり。

サイドフォースとスリップ角

 あるスリップ角でタイヤが転がり運動をすると、スリップ角に応じたサイドフォース(車の進行方向を変える力)が発生します。
 サイドフォースとスリップ角の関係は下図のようになります。
 これを見れば解るように、ある舵角まではサイドフォースは増加し、それを越えると低下します。

舵角とサイドフォース

 つけくわえて知っておくべきこととして、「スリップ角の大きさに応じてタイヤの転がり抵抗が増えること」があります。これは減速の要因になります。

ここの要点
  • サイドフォースはスリップ角に応じて、ある点までは上昇するが、それを越えると低下する。
  • 高すぎるスリップ角は減速の要因となる。
走りのヒント
 舵角が浅いほど効率よくサイドフォースが発生し、転がり抵抗も少ない。

その他

 ゲーム上ではあまり関係ないタイヤの性質。

接触面積が増えるほど摩擦力は増える

 タイヤは路面との接触面積が増えるほど摩擦力が増します。
 これは力による接地面の変形により摩擦力が変化すること、及び太くて大きなタイヤ程摩擦力が大きいことを表わしています。
 タイヤのサイズが変更できたり、タイヤの空気圧をいじれるゲームがあれば関係しますが。

力と摩擦力が必ずしも比例しない

 タイヤはある力(比例限界)までは比例した摩擦力を発揮しますが、それ以降は徐々に摩擦力の上昇が鈍り、いずれ限界に達します。
 タイヤの比例限界まで作り込んであるゲームであれば関係するかも。荷重をかけ過ぎるとタイヤがバーストしたりして。

温度の変化により摩擦力が変化する

 タイヤは、ずるずるに溶けるまでは温度が上がるほど摩擦力が上昇し、それ以上の温度では摩擦力が低下します。
 タイヤが温もっているか、はたまた熱ダレしているかまで再現しているゲームなら関係あり。グランツーリスモはひょっとしたら関係してるかも。

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