第八回 ヒールアンドトゥ

 ヒールアンドトゥとはドライビングテクニックで、右足の爪先でブレーキを踏みながら右足の踵でアクセルを操作することを指します。
 シフトダウンする際、ギアの回転数にエンジンの回転数をあわせようとするとアクセルをあおらなければなりません。
 左足はクラッチ操作を行うので、ブレーキで減速しながらアクセルを操作しようとすると必然的にその両方を右足で操作しなければならなくなります。
 その右足だけでアクセルとブレーキを同時に操作する技術がヒールアンドトゥというわけです。

 クラッチまで再現しているレーシングゲームは少なく、ギアとエンジンの回転数の同期はたいていコンピュータがやってくれるので、ゲームにおけるこのテクニックの重要性は一般には低いです。
 しかしながら一部のレーシングゲームでは、その特有な挙動がこのテクニックの有効性を高めています。
 それについていくつか例をあげて解説していきます。

減速しながらのシフトダウンの有効性

フットブレーキとエンジンブレーキの併用により制動距離を短くできる。

 車はタイヤの性能を越えた減速はできませんが、ゲームの世界は摩擦係数が非常に高く、タイヤの性能がブレーキシステムの性能を越えていてフルブレーキングでもタイヤをロックできないことがままあります。(=減速性能がタイヤの性能の範囲未満になってしまう)
 そういう場合、フットブレーキとエンジンブレーキの併用により、制動距離を縮めることができます。
 グランツーリスモのライセンス試験にブレーキで定位置に停止するものがありますが、減速しながらシフトダウンを行うことにより、格段にゴールドでクリアしやすくなります。ただし、シフトダウンの際、エンジンの回転数をレッドゾーンに入れてしまうと(制裁としてエンジンブレーキが効かなくなるためか)制動距離は逆に延びてしまいます。

立ち上がりまでにシフトダウンを済ませておくことで、鋭く加速できる。

 グランツーリスモ2やType-Sといったレーシングゲームではシフトチェンジにある程度時間がかかるようになっています。(操作しても瞬時にギアが切り換わらない)
 それゆえ減速時に予めシフトダウンを済ませておかないとタイムロスにつながります。

ギアとエンジンの回転数の同期の有効性

シフトダウンにかかる時間を短くできる。

 グランツーリスモ2やType-Sといったレーシングゲームでシフトチェンジの際に生じるタイムラグは、おそらくギアとエンジンの回転数の同期を半クラッチでとることを表現していると思われます。
 よって、シフトダウンする際にアクセルをあおってエンジンの回転数を上げることで同期に必要な時間を短縮できる可能性があります。
 例えば、Type-Sでは減速しながらシフトダウンする際にアクセルを少しあおってやるとシフトダウンにかかる時間が若干減少するようです。

シフトダウンによる挙動の乱れを抑えることができる。

 ギアとエンジンの回転数の同期がとれていない状態でクラッチをつないでしまうと、変速ショックで車の挙動を乱してしまいます。
 それを意図的に使うのがドリフトのきっかけであるクラッチキックやシフトロックであるわけですが、実際問題、限界レベルでのコーナリングにおいてこういう挙動の乱れは致命的な要素になりえます。
 アクセル操作によりギアとエンジンの回転数の同期をとることで、こういう挙動の乱れを抑えること ができます。

ヒールアンドトゥの手順について

 一部のゲームではクラッチまで再現しているものがあるので、補足としてここにヒールアンドトゥの手順を記述します。

1.右足でブレーキを踏む。
2.左足でクラッチを切る。
3.右足つま先でブレーキを踏みつつ、右足踵でアクセルをあおる。
4.シフトダウン。
5.クラッチをつなぐ。
6.右足踵をアクセルから離す。

 3の操作は、シンクロナイザーを積んでない車では、ニュートラルギアでクラッチをつないで行う必要があります(ダブルクラッチ)。これが必要なゲームを私は知りませんが、実車のポルシェなどにはシンクロナイザーはありませんので念のため。

 3の手順でアクセルをあおるのは回転数を低い方のギアにあわせるためです。

 回転数の合わせ方について記述します。
 ある速度X、回転数5000rpm、5速で走行中、4速にシフトダウンするとします。
 4速のギア比÷5速のギア比=1.2の場合、5000×1.2=6000(rpm)がクラッチをつなぐ回転数となります。要は各ギアの比を覚えておいて、その比に基づいて回転数を合せればいいわけです。

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